血清アメーバ抗体の使い方⓶:血清抗体の検査感度は、無症候性感染で高い?

そのようですね。

前回の記事で、赤痢アメーバが引き起こす4つの臨床病型 (無症候性感染、腸炎、肝膿瘍、劇症型アメーバ赤痢) について、解説しました。『重症度は、右に行くほど高い』でしたね。しかし、血清抗体の感度は、無症候性感染で高く (≒90%)、他の3病型ではやや低め (≒40-70%) です。

なぜでしょうか?

血清抗赤痢アメーバ抗体検査は、被験者の血清中に存在する Entamoeba histolytica に対する抗体を検出します。Ig class を分けずに測定していますが、IgG class の量が、検査結果に大きく影響します。

有症状の3病型 (腸炎、肝膿瘍、劇症型アメーバ赤痢) では、『一定期間の無症候性持続感染の後に症状を呈する場合』と、『感染直後から病状が進行し症状を呈する場合』、2つの発症パターンに分かれます。後者の場合、血清抗体検査の提出するタイミングが、感染急性期になってしまい、IgG 抗体が上がる前に検査が実施されてしまい、血清抗体の偽陰性が引き起こされます。

一方、無症候性持続感染の場合には、感染を疑うタイミングは、感染急性期でない場合がほとんどです。無症候性感染においても、回盲部に潰瘍が形成され、血清抗体は上昇します。

ちなみに、無症候性感染の持続期間は人によって異なりますが、平均 1 年程度らしいです (ベトナムのコホート研究)。また、無症候性感染者の 80-90%が、有症状の感染を来さずに自然治癒する一方で、10-20%の無症候性感染者は、1年以内に有症状の3病型のいずれかを発症することが示されています (日本、南アフリカのコホート研究など)。

血清抗体の検査感度の違いは、検査のタイミングが急性期か慢性期かという理由により、生じていました。ちなみに、有症状の3病型についても、回復期に血清抗体を測定すれば、検査感度は 90%前後とのことです。(IgM を検出しようと試みたことがありますが、他の感染症と同様、IgM は低力価かつ、非特異的な反応との区別が付きづらく、正確な判定は困難でした)

以上、『血清抗赤痢アメーバ抗体は、すべての病型 (無症候性感染、腸炎、肝膿瘍、劇症型アメーバ赤痢) に対し、感染から十分な時間が経過していれば、同じくらいの検査感度 (90%前後) が得られる』検査です。しかし、『感染した時期と検査実施のタイミングにより、実際の臨床現場における検査感度は、無症候性 “持続” 感染で最も高くなる』という話でした。

次回は、無症候性持続感染者に対する血清抗体スクリーニングの可能性について、解説していきます。

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