血清アメーバ抗体の使い方⓸:肝膿瘍の診断

血清抗赤痢アメーバ抗体検査が、今年中に、保険診療で復活して欲しいという願いを込めて、短期連載:血清アメーバ抗体の使い方、を公開しています。

今回は、赤痢アメーバ感染の4病型 (過去の記事で解説) のうちの3番目、アメーバ性肝膿瘍の診断における、血清抗体検査の位置づけについてです。

国内外の教科書でも記載されていますが、血清抗体検査は、アメーバ性肝膿瘍の診断に、非常に有用です。

感染症の専門家が愛用する教科書:Mandell, Douglas, & Bennett’s Principles & Practice of Infectious Diseases (通称:マンデルと呼ぶ人が多い) には、検査感度が、急性期:70-80%、回復期:90%以上、と記載されており、実臨床でも、同じくらいの感度か、それ以上と感じていらっしゃる方が多いのではないでしょうか。

アメーバ性肝膿瘍を疑った患者さんで、抗体陽性かつメトロニダゾールへの治療反応性が良好であれば、肝膿瘍を穿刺しなくとも、診断から治療までが完結してしまうと考えて良いでしょう。血清アメーバ抗体は、アメーバ性肝膿瘍の診断において、非常に有用です。画像検査等で肝膿瘍を疑った際には、血液・生化学検査と共に、提出すべき検査です。

注意点としては、『急性期に測定すると、IgG 抗体が十分に上がっていないために、偽陰性が出ることがある』点と、『血清抗体は、赤痢アメーバ感染から治癒後も、2-3 年は陽性となってしまうため、感染を繰り返している可能性のあるハイリスク群では、偽陽性の可能性もある』点です。

2点とも、検査時にどの程度アメーバ性肝膿瘍を疑っているのか=検査前確率の精度を上げておくことが、重要です。

アメーバ性肝膿瘍を強く疑っているが、血清抗体検査陰性 (偽陰性を疑う状況) の場合や、どちらかというと細菌性肝膿瘍を疑っている状況で、血清抗体検査陽性 (偽陽性を疑う状況) の場合にも、メトロニダゾールへの治療反応性を注意深く見つつ、経過が悪い場合には、細菌性肝膿瘍や他の原因除外のため、穿刺液の細菌培養検査・腫瘍や肉芽腫除外のための病理検査の提出を検討すべきでしょう。

血清抗体検査は、抗原や培養検査と異なり、直接的な病原体の同定ではありません。解釈が難しくなる状況も、頻度は高くありませんが、想定されますね。

以下は、雑談です。『検査前確率の精度を上げるって、どうゆうことやねん!?』と感じていらっしゃる方や、『純粋にアメーバ性肝膿瘍の臨床に興味がある』という方は、読み進めて下さい。

血清抗体を測定する時点で、臨床経過や身体所見などから、細菌性肝膿瘍とアメーバ性肝膿瘍を、判別することは、可能なのでしょうか?

そうですね、ある程度、どちらを積極的に疑う状況か、判別できることが、多いと思います。診療経験の多い方は、お感じになっていることかと思いますが、アメーバ性肝膿瘍の発見契機は『随伴症状のはっきりしない、持続する熱』となることが、多いのではないでしょうか。

発熱に加えて、どんな随伴症状が、アメーバ性肝膿瘍の診断契機となるか、やや古い論文ですが、LANCET に掲載された総説 “Amoebiasis” の Table 2 が、参考になります (私が偉そうに言える立場ではないですが、Table 2 は、秀逸です)。

LANCET “Amoebiasis” Table 2 を見ると、症状発現から診断まで、2週間以上掛かってしまうことも、しばしばであることが、分かります。また、肝膿瘍の診断までに時間が掛かる理由が、下痢の合併頻度が 15-40% 程度であること、咳の合併頻度が 10% 以上もあるなど、非特異的な随伴症状 (もしくは、随伴症状の欠落) が、診断を難しくしてしまっていることが、ひしひしと伝わってきます。また、実臨床の感覚との近さを感じます (記載されている致死率が高めなことのみは、納得しがたいのですが・・・)。

臨床的な感覚をお伝えすると『画像で肝膿瘍を見つけ、細菌性というよりは、アメーバ性かなぁと思う瞬間です』が、以下です。
1.肝膿瘍発症にも関わらず、救急車ではなく walk-in で受診し、(熱できつそうではあるが) 自分のきつかった数日から数週間について、長時間、かつ、詳細に渡り、語ってくれる患者さんに、肝膿瘍が見つかったとき・・・
2.クリニックからの紹介で、発熱と乾性咳嗽が続くために、胸部レントゲンを撮像したところ、右胸膜炎を認めたことにより紹介受診、CT で横隔膜下に肝膿瘍を発見してしまったとき・・・
以上のような臨床経過で、肝膿瘍を発見した場合が、現場感覚として、『アメーバ性肝膿瘍であるという “検査前確率” が高い状況』です。逆に、ショックバイタルや意識障害を併発している状況で、肝膿瘍が見つかった場合には、『クレブシエラ菌血症に合併した肝膿瘍や、胆道の閉塞性疾患に合併した肝膿瘍である “検査前確率” の高い状況』になりますね。

血清アメーバ抗体検査は、アメーバ性肝膿瘍の診断に非常に有用ですが、丁寧な問診や診察も、アメーバ性肝膿瘍の診断には、大切なようです。

最後に、余談となりますが、アメーバ性肝膿瘍は、腸管症状がない、または、軽度にとどまるため、糞便検査 (直接検鏡や迅速抗原検査) の診断的有用性は、限定的です。その意味においても、血清抗体検査は、診断に有用そうですね。

血清アメーバ抗体検査の保険診療への復活、待ち遠しいです。


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