血清抗赤痢アメーバ抗体が、2024年2月末に PMDA から体外診断試薬としての承認を受け、今年中には、保険薬価収載されるだろうと見込み、勝手に始めた連載の第3回目は、アメーバ性腸炎の診断です。
血清抗体が認可された場合の診断ツールは、大きく分けて、3つになります。
1.糞便検査 (直接検鏡によるシストや栄養型の形態的同定、もしくは、迅速糞便抗原検査:E HISTOLYTICA QUIK CHEK)
2.血清抗体検査 (2024年中には保険薬価収載?)
3.下部消化管内視鏡検査 (病変部の生検病理から赤痢アメーバを同定)
糞便検査 (直接検鏡):
直接検鏡は、糞便を直接、または、遠心などにより集卵した後、顕微鏡を覗き、形態的に赤痢アメーバを同定する検査です。当然ですが、検査する人の技能に検査精度が大きく左右されます。熟練の検査技師が行う場合、糞便抗原検査を凌駕する検査感度を誇る一方で、検査提出件数が激減しているため、検査可能な人間が少なくなっています。また、栄養型は、すぐに死滅してしまい、動かなくなってしまうと同定が極めて困難になります。自施設で検査を行う場合には、検体採取後、速やかに検査を行う必要があり、外注などに依頼する場合には、栄養型の同定は不可能に近いと考えた方が良いでしょう。
検査提出する場合には、実施施設の検査担当者とよく相談し、疑い病名 (赤痢アメーバ疑いなのか、他の寄生虫を疑っているのか) を十分に伝える必要があります。外注検査依頼書にも、疑い病名を明記するようにしましょう。
以上のように、実施可能な施設や検査担当者が限られてくることが、問題ですね。しかし、凄腕の検査技師がいる医療施設では、非常に有用な検査です。
糞便検査 (迅速抗原検査):イムノクロマト法
検査試薬に付属の溶解液に、微量の糞便を溶かし、イムノクロマト法により診断します。見た目は、インフルエンザやコロナの迅速抗原のような試薬なので、特別な機器は不要、クリニックなどでも使えます。(個別包装での卸売りが出来ず、購入する場合には、箱買いになるため、キットを常備できる医療機関が限られていることが問題のようですが・・・)
赤痢アメーバ栄養型の表面抗原を標的にした検出方法を用いているため、激しい下痢や粘血便を呈しているような患者さんに対しては、高い感度を示す一方で、慢性下痢を呈するような中等症~軽症のアメーバ性腸炎では、感度が低下してしまいます。偽陰性が多くなってしまいます。
一方、特異度は非常に高い検査で、偽陽性は、ほぼ見られません。
以上、感度が不十分だが、特異度が高い検査であり、陽性ならアメーバ性腸炎と診断してよいが、陰性でもアメーバ性腸炎を否定できない、そのような特徴を持つようです。
では、糞便検査で診断できないが、アメーバ性腸炎を疑う場合には、どうするべきか。有用なのは、血清抗体検査+下部消化管内視鏡検査を組み合わせて診断する方法だと思われます。
血清抗体と下部消化管内視鏡検査の組合せによるアメーバ性腸炎の診断:
パターン⓵:下部消化管内視鏡で大腸に潰瘍あり、病理組織でアメーバを同定⇒血清抗体の結果に関わらず、アメーバ性腸炎と診断
パターン⓶:下部消化管内視鏡で大腸に潰瘍あるが、病理組織でアメーバは同定されない+血清赤痢アメーバ抗体陽性⇒アメーバ性腸炎と診断 (かなり疑わしい)
パターン⓷:下部消化管内視鏡で大腸に潰瘍あるが、病理組織でアメーバは同定されない+血清赤痢アメーバ抗体陰性⇒アメーバ以外の大腸炎の可能性が高い (アメーバ性腸炎の可能性は極めて低い)
パターン⓸:下部消化管内視鏡で大腸に潰瘍を認めない⇒血清抗体検査の結果に関わらず、アメーバ性腸炎ではない (血清抗体が陽性の場合には、既感染で治癒後だと考えられる)
赤痢アメーバは、大腸に感染する寄生虫です。感染が成立した後には、下部消化管内視鏡で、潰瘍を見つけることが出来ます。
ですので、下部消化管内視鏡で病変が指摘できない場合には、『現在、アメーバ性腸炎は起こっていない』ということが分かります (パターン⓸)。
一方、大腸に潰瘍を来す病気は、頻度は高くないものの、アメーバ性腸炎の他にも、色々とあります。非感染性だと潰瘍性大腸炎、感染性だとエルシニア腸炎、O-157大腸菌腸炎の他、結核やサイトメガロウイルス腸炎も大腸に潰瘍を引き起こす代表的な疾患ですね。
これらの疾患と、アメーバ性腸炎を見分けることは、時に、難しいことがあります。また、アメーバ性腸炎の潰瘍部分からの病理標本での赤痢アメーバ同定率は、報告により、ばらつきがあり (感度 50-90%)、生検で除外可能とは言い切れません。そのため、血清抗体検査結果を組み合わせて診断することが、有用となります。
下部消化管内視鏡で大腸炎の所見を認める場合に、血清アメーバ抗体を補助的に用い、血清アメーバ抗体の結果により、アメーバ性腸炎の可能性を判断することを推奨させて頂きました (上記、パターン⓶/⓷ですね)。
かなり、マニアックな話をしているように見えるかもしれませんが、慢性下痢や断続的な血便を呈する『アメーバ性腸炎の患者』が、『潰瘍性大腸炎と誤診の上、免疫抑制剤が使われた』結果、重症化してしまったという症例も散見されます。別の角度から、今回の話題を見てみると、『潰瘍性大腸炎と診断する前の感染性腸炎除外のためには、生検病理検査だけでなく、血清アメーバ抗体検査を行っておく』ことで、アメーバ性腸炎の見逃しを防げるとも、言えるのではないでしょうか。
大腸炎の原因についての鑑別は、非常に難しいです。今回は、血清アメーバ抗体検査によるアメーバ性腸炎の診断と除外に関する話題を、お届けしました。
もっと詳しく知りたい人は、赤痢アメーバ・リファンレンスをご覧頂くか、Contact Us から、ご質問くださいね。
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